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O Alquimista

radames.exblog.jp

小説

 それらしき相手の姿はまだ見えない。どうやら自分たちの方が早く到着したようだ。奏は頸の方から聞こえるデルタの指示に従ってとりあえずボルテの前に立ちゲームを始めてみる。
 このゲームはスマホにプレイヤー登録をするとポイントが蓄積され、そのポイントにより新たな楽曲のプレイ権利を獲得できるので、奏も登録してプレイしてみた。
 最初は聴いたことのある曲を選択。ノーミスは無理だったが、一応、A判定でクリア出来た。初めてやってみたが、エフェクトが気持ち良く、思っていたより楽しい。
 曲数をこなす内に何となく楽曲とプレイの関係性がつかめてきた気がしたが、やはり初じめて聴く楽曲をプレイしてみると対応できなかった。
 6曲くらいやった頃に、「そろそろ私にも遊ばせろ」とデルタが後ろから囁いた。
 「でもどうやって....」と言いかけた時に一瞬、首の後ろにヒヤリと冷たい感覚があった。そして、直ぐその後に何か、ふわふわとした感覚がしたかと思ったら、今度は自分の中に他の誰かの意識が入ってくる感覚がした。無論それはデルタだった。
 「まだ説明していなかったが精霊の媒介とはこういうことなのだ。普段は髪に隠れて見えないが、私には2本の触覚のような器官がある。今、私とお前はそれで繋がっている状態だ。これから私の意思でお前の体を動かすから、気分を楽にしていろ。」
 「いや、ちょっと、そーいうことは最初に出会った時に説明するもんじゃ....」
 「コレ、ヤーチューブの動画で見たら結構面白そうでやってみたかったんだよ。」
 「 えー他の精霊と会うためじゃないの?」
 「無論それもある。でもゲームしたいってのも大きな理由の一つだ。」
 「そんな勝手な......」
 実際、デルタがプレイすると初見でしかも難易度高めの楽曲でも高判定やパーフェクトが出るのだった。

 デルタがプレイを始めると間もなく、奏でたちの隣のゲーム機に、奏と同年代の男がやってきた。その男はバイオリンケースを肩に掛けていた。
 そして奏でたちのゲーム機の画面には対戦の申し込みが表示されていた。

# by radames-g | 2017-10-22 20:55 | 小説
 「サラウンド・ボルテックス」とはアーケードゲームの名前である。
 通称「ボルテ」と呼ばれていて、いわゆる音ゲーという音楽ゲームのカテゴリーに入る、立体音響システムが売りのゲームである。
 ゲーム内容は、四車線の直線道路のような画面にリズムやメロディーに関連した長短のラインや左右に流れるラインが流れてくるので、プレイヤーは、それをジャストなタイミングでボタンやツマミを操作してなぞると、楽曲には洒落たエフェクトがかかる仕組みである。
 プレイの優劣はラインのなぞり方にミスがないことタイミングが合っていること、により決まる。ただし、初見でこのゲームで高得点を出すのは非常に難しい。まして、難易度楽曲で連続してパーフェクトを初見で出すなどは限りなく不可能に近い。
 ゲームに使用される楽曲はゲームメーカーが公募で広く一般から集めた曲から、アニメソング、ボカロ曲、ゲームのBGMと様々だ。
 難易度の高い楽曲としては南方というシューティングゲームのBGMで有名なZON氏の楽曲やニートマリオ氏のアレンジ曲、ハゲドライバー氏のアニメソング、そしてこのゲームで使用する一般公募のコンテスト常連である、かねこちあき女史の楽曲などが入っている。
 そして、このゲームは機体同士で対戦が出来るのであった。

 今、奏とデルタはとある郊外のショッピングモール内のゲームセンターに来ていた。 場所が郊外な上に世間は平日のオンタイムという時間なので店内は閑散としていた。奏はこの日のために、あえて今日の講義をサボっていた。
 というのも、奏とデルタは、デルタと同種族の者が製作に関わっていると思われるあの動画を見た後、投稿主へ接触するため、「自分も同じスタイルの動画を投稿するものとして親交を深めたい」的な内容のメッセージを先方に送り、この場所を奏らが指定していたのだ。そして場所がゲームセンターというのはデルタにある考えがあってのことだった。
 それは、もし相手が精霊を連れた者ではなく普通の人間であった場合でも、こちらの存在を知られることなく安全に見極めるためのアイディアなのだった。


# by radames-g | 2017-10-22 20:41 | 小説
 相変わらずデルタの洋服は増加傾向である。
 ドール用の服を作っている職人さんからは、「いつもありがとうございます。」なんて、メッセージが同封されていたりして、すっかり自分は人形のマニアだと思われてしまっているな。奏はそんなことを考えながらヌコヌコ動画のランキングをチェックしていると、ある動画のサムネに目が止まった。しかも、そこそこの順位と再生回数である。
なんとなくの雰囲気が似ているな。

 奏とデルタが動画を投稿してから彼らの作品の2次創作や類似コンセプトの動画投稿を沢山見かけるようになったが、その動画サムネのキャラクターのイラストは言葉では表現できないが、何か明らかにデルタと同じ種族の別個体という雰囲気が他の類似作品よりも強く感じられる。

 内容も見てみよう。
 動画を再生してみると、やはり他の類似動画とはあきらかに違うなめらかなダンスの動き、曲の独特の雰囲気にも惹きつけられるものがある。
 そして何よりも、動いているキャラクターの雰囲気は更にデルタと共通しているものを感じさせる。

 奏はメール便で届いた洋服を物色中のデルタを呼んでその動画を見せると、
 「これは間違いなく私と同じ眷属の者によるものだ。」
 「しかし、私のやり方にうまいこと乗っかって金を稼ぐとはいけ好かない奴だな。」
 と、彼女は呟くのだった。


# by radames-g | 2017-10-22 20:38 | 小説
 更に数ヶ月が経った。
 デルタは奏の部屋にいて、タブレット端末で何やら難しい法律のサイトを読んでいる。奏の方はそんなデルタの姿を眺めながらパソコンに繋いだMIDIキーボードの鍵盤を弄りながら適当にメロディーを弾いている。

 二人はあれからさらに数曲の投稿をしていた。
 ネットに投稿した楽曲の良さもさることながら、量産される、ただ可愛いだけの昨今のキャラクターとは異質の魅力があり、異形でどこか怪しくも美しさも併せ持ったネット上のデルタのキャラクターは話題となっていた。また動画のダンスの動きもヌルヌルと動くと評価が高かった。彼女を模したイラスト、造形物などの2次創作も多数出てきており、最近はキャラクターグッズを製作販売したいのでライセンス契約をしてほしいとの申し出もあった。

 そんなことと関係があるかどうか解らないが、奏はデルタに届く通販の私物が多くなっており、衣服も上質で高くなっていることに気付いていた。咎める気持ちはないが、精霊ってこんなに物欲があって俗っぽいものなのかなぁ〜などと、ぼんやりと考えていた。

 突然、デルタが話だした。
 「奏、これからはライセンス料でも儲けることにする。」
 「フィギュアをはじめとしたキャラクターグッズも展開する。」
 「キャラクターグッズ、つまり私のレプリカが世の中に増えれば、私が外で行動する上で何かと都合が良い。」 

 「その先はどうなるの。」
 「稼いだ金を元に今度は株式投資をする。」
 「将来的には会社設立も視野に入れている。」

 「で、亡霊の調査って、どうなったの。」
  奏がそう言うとデルタはハッとした様子で目を丸くしたのだった。
# by radames-g | 2017-10-22 20:36 | 小説
 デルタが奏の元にやってきてから2ヶ月が経っていた、ある朝。
 奏は大家の農園へ向って歩きながら、自分にとって 小さな者との出会いから始まった大きな日常の変化が、それなりに馴染みつつあることを不思議に感じていた。

 大家の農園にあるシンボルツリー的な大きなミズナラの木の前で彼は立ち止まり、周囲に人の気配がないことを確認する。そして口笛であるメロディーを吹く。
樹上からデルタが彼の肩に飛び降りてきて素早く彼のうなじを伝ってシャツの裏側、以前、特別に後ろ襟の下に縫い付けたポケットの中に潜んだ。

 自分のことを居候と言っていた割にデルタは奏の部屋にめったに泊まることはなかった。用が無ければミズナラの樹上にあるウロの「別宅」で過ごしている。
彼女曰く、一応、女性である自分が用もないのに男性の家に入り浸る関係は「ふしだら」であると言っていたが、奏としてみれば、そもそも種族、大きさとが違い過ぎて、「ふしだら」とかそんな関係はありえないだろう。と口には出さなかったが、その時は内心ツッコミを入れていた。

 「この間アップした動画のアクセス数はどうなってる。」
  デルタが後ろから奏に話しかけた。
 「ヤーチューブでで30万位、ヌコヌコ動画も同じくらい、でもこっちは2次創作作品も出て来てて、更に驚いたのはデルタのフィギュアを作った奴がいた。」
 「まあ、そんなとこか。次の展開も考えないとな。

 動画とはデルタが思いついたイメージ、モチーフによるメロディーを奏が現代風のアレンジをしたりしながら作った音楽に合わせてデルタが踊る映像の動画のことだった。 ただし、緑色のウロコ肌バージョンの異形の彼女が踊っている生の映像は流石に世間が騒動になるので、モーションキャプチャーで彼女の動きをトレースし、イラストにし直したトカゲ風デルタをそのモーションで踊らせたものを動画にしたものだ。
 曲のタイトルは「 Tablet dancer 」 動画の内容は彼女とであった時のタブレットの上でのダンス。本物のデルタのように肌の質や色が変化する様子も描いてある。
 奏は作業を行う上で、彼女の音楽センスに驚かされたし、刺激を受け自分自身の音楽的能力が少し上がったような気がした。

 奏とデルタは音楽と簡単なイラストまでは作ることは出来たが、より精度の高いイラストとそのキャラクターを踊らせるというところまでは難しかったのでネット上の創作者同士のコラボレーションを支援するピヤプロというサイトで3Dモデルとダンス動画の制作者を募って動画を完成させた。
 制作者を募る際はデルタの人間肌バージョンの美人な写真をアイコンにし女性っぽいプロフィールにしたアカウントを作ったら希望者は沢山集まり、高い技術を持った職人と出会うことができた。

 そもそも、どうして、デルタの本来業務である宇宙からの亡霊の調査と関係のなさそうなこんなことをしているかというと、彼女曰く、活動資金ともっと自分が現代で活動しやすい環境が調査を始める上で必要になるからとのことだった。
 
 彼女は最初、石を拾ってくるような簡単な仕事だといっていたが、どうしてお金が必要になるのだろう。そして自分が活動しやすい環境ってどうゆう事なのだろうか。 奏は自分のバイクの置いてある場所へ向かって歩きながらそんな事を考えながらSR400に跨がりエンジンを掛けると学校へ向かった。
# by radames-g | 2017-10-22 20:24 | 小説

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